ジョン・ロールズ

一般書籍

リベラリズムの確立 ジョン・ロールズ(社会正義の探究者)

斎藤純一・田中将人 著

はじめに

「正義に適った社会とは、何か」~「正義論」の問い

・正義の二原理

 第一原理 ~ 平等な自由の原理

 第二原理 ~ 公正な機会平等の原理(前半)格差原理(後半)

・リバタリァニズム ~ 個人所有権と国家に干渉されない自由

・コミュニタリァニズム ~ コミュニテイへの帰属

・立憲デモクラシー ~ 自由かつ平等で、基本的権利及び自由を保障

第1章、信仰、戦争、学問~思想の形成期

「世間のすべての人が、お前のように恵まれた条件を与えられたわけではないのだと」(誰かの事を批判したくなったときにこう考えるようにするんだよ)

・エゴイズム(私・モノ) ~  他者を利用するにとどまる

・エゴテイズム(私・汝)~傲慢ゆえのうぬぼれが付きまとう。他人を虐げる。

信仰;慈悲深い神によって救われる。神からの贈り物(ギフト)所与性を知る

・従軍体験・戦友の死・ホロコーストとヒロシマ

・倫理学・学問的交流

情動主義 ~ ウソの善し悪しすら判断できない理論

不毛な相対主義 ~ 話し手の好みに帰すような理論

論争が無意味で不毛なのは、自己の嗜好を相互にぶつけ合っているだけ。

(あたかもコーヒーと紅茶の優劣についてのデスカッション)

・直観主義 ~ 客観的な道徳の存在を直観的に理解するしかないとする説。

・帰納とは、個々の具体的な事柄から一般的法則を導く方法の事である。

・演繹的推論(因果性)、帰納的推論(蓋然性)

二つのルール ~ 行為功利主義、規則功利主義

生活形式としての道徳的感情 ~ 正義の自然的基礎。人間であれば普遍的に持つ感情に焦点が合わせられている。

・ルソーの社会契約論 法に従いながらも自由であることが出来るのか。一般意志は常に正しくしかもなぜ各人の幸福を願うのか。それは、各人という語を自分の事と考えない者はなくすべての人のために投票するにあたって、自分自身の事を考慮しない者はいないからではないか。

第二章、「生議論」は何を説いたか。(現代政治哲学の基本思想)

・人格と社会の観念

 自分の生き方は自分が決める(人格的自立)・公正な社会的共同システム

・功利主義には、相互性の原理が欠落している。ロールズの人格という捉え方には、自分の具体的な目的や忠誠、愛着を組み入れることによって各自の「善の構想」を描き追及するのであり、そのことからそれぞれ他に代替しがたい「善の構想」の多元性が導かれる。人格の能力を「満足への能力」一般に還元することによって多元性を廃案してしまう功利主義と対比する。

・基本財(善)~ 自由と権利・機会・所得と富・自尊と社会的基盤

・自尊の社会的基盤 ~ 社会の主要な諸制度、基本的な権利、義務を規定思想、良心の自由を保障する制度、市場を競争的に保つ制度、家族など

・正義の二原理に於ける格差原理

税制に於ける、富や所得の格差が過大と見做される場合、累進課税原理、過大ではないとされる場合には、財の生産ではなく、消費に課税する消費税が望ましい。

・正義の二原理の大きな特徴

1、他の価値観に対する寛容  2、平等主義的である

①生き方の多元性の肯定

生き方や活動に対する評価が行われる場所は、コミュニテイやアソシェーションであって、強制力を持った政治社会ではない。

②平等な関係の擁護

「背後的正義」(個々の相互行為の背後にあって、その累積効果を制御する正義)この正義は、腐敗する傾向があるというのが実態である。

・財産所有のデモクラシー

既存の福祉国家は、福祉国家型、自由放任型資本主義ないし国家社会主義

・リベラルな社会主義

政治的自由の「公正な価値」・努力貢献に応じた分配への批判・相互性(互恵性)家族とケアー(親子の関係に着目)

<小括>

公正としての正義;「二つの道徳的能力」を「人格の定義」としたが(重度の知的障害者は例外)

第三章、「リベラルな社会の正統性を求めて」

「政治的リベラリズムの構想」

「正義論から政治的リベラリズム」へ

理に適った多元性の事実

・リバタリァニズム ~ 小さな政府、個人の経済的自由の尊重を目指す思想

・コミュニタリァニズム ~ 共同体を重視する思想

政治活動や他者への奉仕に高い価値を認め、公共的精神に充ちた市民の理念

カント哲学への一層の接近

道徳的能力(合理性と道理性) ~ 自立した人格として正義感覚への能力(他者を配慮)自分独りではなく他者と共に生きる(これはカントの哲学に由来

例えば、「ウソをついてはいけない」という義務は、例外を認めない。

利益や幸福=善よりも優先すべきである。正しくない行為は適切ではないとする考え方。「義務論」=カント~「善に対する正の優先性」それに対して善を増やすという考え方「目的論」=功利主義者

・立憲デモクラシーでは、論争的な包括的教説が政治に直接持ち込まれてはならないとする。

・重なり合うコンセンサス ~ 理論的枠組み(世界観)正統性への注目

第四章、国際社会における正義

「万民の法」で模索した現実主義・人民(ピープル)からなる社会・現実主義的ユートピア

・人権の解釈・交戦の正義;原爆投下、焼夷弾による空爆等民間人を標的とする。

援助の義務 ~ 貿易や相互援助

<小括>

国際社会を再分配のユニットとする。コスモポリタニズムを避け、資源の移動を「援助の義務」にとどめる。諸人民間の対等な関係は、一方と他方の間に事実上の優劣関係をつくる構造的プロセスが常に働いておる環境、文化、制度などの諸世代にわたり価値としてきた事柄の重要性。

第五章、宗教的探究と戦争の記憶

・「開戦の正義と交戦の正義」

公共的理性の観念(再考)と信教の自由と良心の重要性

ボダンの「七賢人の対話」

カトリック、ユダヤ、ルター主義、カルバン主義、ムスリム、自然宗教、

不可知論者

哲学と宗教

・カント;哲学による方向づけ

・リンカーン;政治的判断力と手腕

終章、「ロールズの理想の行方」正義論から五十年

・トマ・ピケテイの「21世紀の資本」 ~ 新自由主義的政策(‘98年以降)

あとがき

どれほど優美でムダのない理論であろうとも、もしそれが心理に反しているなら棄却し修正せねばならない。どれだけ効率的でうまく編成されている法や制度であろうとも、もしそれが正義に反するのであれば、撤廃して改革せねばならない。「全方向的な対話」を重ねながら、相互に向けた正当化を行なっていくほかない。

以上