池上彰 著
はじめに
日韓関係の悪化には、過去の両国間の歴史が影を落としています。
1965年に結ばれた「日韓基本条約」と「日韓請求権並びに経済協力協定」で解決済みとする日本政府と、慰安婦問題と徴用工問題で賠償と謝罪を求める韓国 竹島(独島)の領土問題も両国の間に刺さった棘です。
しかし、サッカーのワールドカップ共同開催やJR新大久保駅で、ホームから転落した人を助けようとして死亡した日韓二人の青年の行動は、人々の胸を打ちました。韓流ブームもありました。どうして「戦後最悪」の関係になったのか、改めて冷静な分析が必要です。
一方、北部には核開発を進めミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮という異形の国家が存在します。拉致問題も解決していません。まずは朝鮮半島の歴史を知ることでお役に立てれば幸いです。 (2019年9月ジャーナリスト池上彰)
第1章「朝鮮人民共和国」(信託統治)
「朝鮮総督府」 ~ 1945年日本の敗戦を機に権限移譲を検討
北緯38度線を境に、北をソ連軍、南を米軍が占領。(何故38度線で分断?)
*半島をほぼ同じ面積で分割できるとしたボンスティ―ル大佐(米)の案として、採用
・呂運亨(独立運動家)による日本との建国構想が挫折。彼には自力で独立を果たせなかったという負い目がありませんし、反日に走って建国神話を作る必要もなかったからです。
1945年12月ヤルタ会談(米英ソ)において、米ソによる信託統治南北二つの国家が誕生
1948年5月李承晩大統領の下で大韓民国成立。9月朝鮮民主主義人民共和国金日成首相
第2章「自ら独立を勝ち取った」(大韓民国の成立という物語)
日本の降伏から、棚ボタ式に建国できたとする名ばかりの政府。
・李承晩大統領とはどんな人物か
永くアメリカで亡命生活。クリスチャンであったことでアメリカ人にはその人物を共通の価値観を有した民主主義者だと盲信してしまう。ところが73歳から85歳までの12年間権謀術数を駆使し、独裁者として君臨。
第3章「抗日パルチザンが建国」(北朝鮮の成立という神話)
実際はソ連による独立国家だが神話ずくりには金日成の神格化が必要でした。
・「金日成」とはどんな人物なのか。
キリスト教徒の両親の影響で一時キリスト教教育を受けその後 満州の吉林に移り中国共産党に入党。抗日運動に参加し名を挙げる。その後日本の治安部隊に追われソ連に逃げ込みソ連の野営地に住み付き後の金正日が誕生します。
1945年8月満州に駐留していた関東軍を攻撃し宣戦布告しました。
朝鮮学校で使われている歴史教科書では、「敬愛する首席様」におかれては朝鮮人民革命軍の全部隊に祖国解放のための総攻撃命令を出された~こうして41年間にわたる日帝の植民地統治から解放された。ここでは連合国の事は全く登場しませんし日本を敗北に追い込んだのはまるで金日成一人の功績であるかのような描写です。実際にはソ連の基地内にいてこの闘いには参加していませんでした。その後ソ連に見出されたソ連軍大尉が、北朝鮮の歴史に名を遺す人物となっていくのです。北朝鮮は人民民主主義という概念でほとんどの企業が国有化され、民主主義を掲げながら社会主義政策を遂行するスターリン方式と呼ばれる東方諸国でも実施した手法でした。朝鮮民主主義人民共和国としての建国です。
抗日遊撃隊(パルチザン)のメンバーは金日成を「将軍」と呼びあった。
第4章 「同じ民族の殺し合い」(朝鮮戦争という悲劇)
最大の悲劇は保導連盟事件(共産主義からの転向者を再教育するための機構)
戦火を交える双方から敵とみなされて虐殺された多くの同じ民族同志の存在。
朝鮮戦争は、北朝鮮の金日成による奇襲で始まったとされている。それにしてもアメリカの謀略によって起きたものかそれとも北へ送り込んだスパイの情報を生かすことが出来なかったのか未解明な点は多く残されたままである。
・日本の再軍備はじまる。1950年7月「警察予備隊」後の自衛隊の設立。
第5章 独裁政権「李承晩」による支配
・アメリカの援助と財閥の誕生
・李承晩ラインと竹島問題 ~ 日韓関係の改善を望んだアメリカが大統領の据えた李承晩もアメリカは見放した。
第6章 「金日成」の権力掌握と社会主義化
・「千里馬運動」経済五か年計画と日本からの帰国運動(地上の楽園)
・「主体」という概念が思想へ
第7章 日韓条約が結ばれた
・1961年5月若手将校によるクーデター(首班は朴正煕少将)
「朴正煕」という人物 ~ 反共政権
1965年6月日韓基本条約調印 ~ 韓国への資金供与、李ラインの撤廃、在日韓国人の法的地位の確定などの協定も結ばれた。また同時に「日韓請求権並びに経済協力協定」も結びました。
・アメリカの要請で、ベトナム派兵へ ~ 虐殺事件を起こしていた。
第8章 「主体思想」による特異な国家に
・四つの柱
政治における自主、経済における自立、国防における自衛、思想における主体
・正しい指導があって人間は主体となる~“金日成と金正日のいうことを聞け”
党と領袖に対する忠実性(たとえ生命をなげうっても戦うと領袖に最後まで忠誠を尽くす覚悟に徹し、断頭台に立たされても革命的節操を守れる人間、是こそが革命観の確立した真の革命家です。一種の「国家有機体論」
首領が脳髄、人民が細胞である。そして神経が党である。この三つが一体となって一つの生命体を成す。永遠不滅の社会政治的生命を獲得することが出来る。これによって人間は第二の生命を与えられるのである。
・金日成に権力集中(個人崇拝)
全党員は偉大な首領「金日成同志」の革命思想以外にはどんな他の思想も知らないという確固たる立場を堅持し、教示とその党政策を物差しにしてすべてを計り相反する現象とは妥協せずに闘うことが出来るようになった。
・「三大革命小組」~「思想革命」「技術革命」「文化革命」
「五号担当制」(五人組)五世帯ごとに組を作り相互に監視する。
・三つの階層に分類
上位 ~ 核心階層(党員や朝鮮戦争で戦死した遺族)
中位 ~ 動揺階層(富農、経営者、日本からの帰国者)
下位 ~ 地主、資本家、キリスト教徒、仏教徒らで「敵対階層」
下位の敵対階層を弾圧し、それを中位の動揺階層に見せつけることで体制を維持してきた。
・大韓航空機爆破事件~1987年11月イラクのバクダッドからソウルに向かう大韓航空機がミャンマーの海上で空中爆発115人全員が死亡。北朝鮮工作員金賢姫(蜂谷真由美)による犯行と判明。ソウルオリンピックの開催阻止が目的であった。李恩恵(田口八重子)から日本語教育を受けたと供述したことから拉致被害者であることが判明日本人拉致事件が注目されるきっかけとなる。
第9章 民主化への苦闘 ~ 朴正煕の暗殺と光州事件
・金大中事件 ~ 1973年8月ホテルグランドパレスで拉致される。
・1979年10月朴正煕大統領が暗殺される。
・「粛軍」クーデターで全斗換政権 ~ 光州事件以後三権を掌握
第10章 「日本人の拉致」実行(北朝鮮)
・北朝鮮の工作員が日本人に成りすまして韓国に入国する目的で、日本人を拉致していたことが明らかとなる。
・2002年3月よど号ハイジャック事件(共産主義者同盟赤軍派)
・金正日と小泉首相との首脳会談でついに拉致を認める。
・なぜ拉致が行われたのか。
日本人に成りすました工作員を韓国に入国させる計画、又日本語教育係として拉致するケースあり、印刷工や医師、看護師などの専門職も多く、技術の確保のためという疑惑も存在した。
第11章 死刑囚から大統領へ(韓国の民主化)
・野党の分裂で「盧泰愚」政権誕生
韓国の大統領は、常に前任者を追及し前任者とは異なるところを見せることで新しい権力を獲得してきた。
・1988年9月ソウル・オリンピック成功 ~ 韓国経済が発展したことでイデオロギーよりは経済で韓国を選ぶ。
・1993年「金泳三」大統領の誕生 ~ ここでまた前政権追及
盧泰愚は収賄容疑、全斗換はクーデターの首謀者容疑で逮捕
・ついに「金大中」が大統領に(1997年12月)
第12章 核開発に進む孤立国家(金日成から金正日ヘ)
・「金正日」デビュー
「北朝鮮の建国の父」として自分の父親を持ち上げます。さらに父の名を冠した競技場など記念碑的建造物を次々に建設しています。
・核開発進む~ソ連から黒鉛炉という種類の原子炉が導入。その際核拡散防止条約(NPT )に加盟を求めます。この条約は核兵器保有国(米英仏中国)以外の国が核兵器を持たせない取り決めです。加盟国が核技術を軍事目的に転用していないか、IAEA(国際原子力機関)の査察を定期的に受ける義務があります。
・核兵器には、プルトニウム型とウラン型がある。
・ロシアも中国も信用できない。アメリカとの直接交渉に持ち込み自国の安全保障を確保したい。そのためには敢えて核危機状況を引き起こすことで、アメリカを協議の場に引き込みたいという戦略を立てていたのです。
・6か国協議開かれる(北朝鮮、ロシア、中国、アメリカと韓国、日本の6か国)
・イラクとリビアの教訓
イラクのフセイン大統領が大量破壊兵器を保有しているとして、2003年アメリカのブッシュ政権はイラクを攻撃しフセイン政権は倒されました。
2006年リビアのカダフィ政権はアメリカの説得を受け入れ「テロ支援国家」の指定を解除し国交正常化しました。ところが「アラブの春」による反政府運動に「NATO軍」が支援。カダフィは殺害される。
もしリビアが核兵器を所有していれば、NATOは安易に攻撃できなかったであろう。自国の体制維持と金一族を守るためには核兵器を手放すわけにはいかない。これが北朝鮮の大方針なのです。
・「先軍政治」すべてにおいて軍事を優先この思想は、中国の天安門事件≪1989年6月≫ルーマニアにおけるチャウシエスク大統領夫妻が民主化を進める市民と軍隊により処刑された。これを教訓に、軍隊を掌握することが権力を維持する道だ。
第13章 金融危機と国際化(金大中大統領で日韓関係改善)
・1997年7月アジア通貨危機
タイが発生もとで韓国に飛び火しました。当時のアジア諸国は「ドル・ペッグ制」ドルの為替相場が高騰するところに、ヘッジファンドが襲いました。
過大評価されている通貨を空売りし通貨が安くなったところで買い戻せば利益が出る仕組みです。狙った国から多額の資金をその国の通貨で借り、此れをドルに両替する、つまりその国の通貨を売ってドルを買った事になる。売った通貨は借りた金であって自分のものではありません。自分のものでないものを売るから「空売り」です。その後、変動相場制になって通貨は暴落。ヘッジファンドは通貨を買い戻し金融機関に返済、多額の利益を上げました。
この時点で韓国はドル不足に見舞われます。ついにIMFに救済を求めます。
IMFが救済に乗り出す場合、見返りとして経済改革を求めます。
金融機関の統合、是はやがて日本でも見られる光景でした。
・金大中大統領の「太陽政策」
2000年6月南北首脳会談(南北共同宣言)により平和統一を目指す。
日本文化が解禁~「HNA-BI」(北野武)・「影武者」(黒沢明)上映
・日韓ワールドカップ共同開催。その後の韓流ブームへ
第14章 金王朝は続く(金正日から金正恩へ)
・2011年12月金正恩が三代目王朝の主に
金日成(偉大なる首領)・金正日(偉大なる将軍)・金正恩(敬愛する元帥)
・2017年マレーシアで実兄 (金正男)工作員により暗殺される。
・2012年12月ミサイル発射。翌13年地下核実験。突然の挑発行動を連発。
2013年12月後見人帳成沢の粛清。デノミ(100/1)に踏み切るが失敗
2014年2月国連調査委人権状況を暴露
第15章 困ったら「反日」カード
・2002年、「盧泰愚」政権誕生~日本統治時代を経験していない初の大統領
インターネットでの支援で当選した。当初は未来志向で行こうと謳いますが、支持率が下がると反日に舵を切って支持を得ようとする。当時の若者たちは韓国の独立に懐疑的で事実上アメリカの支配下で半植民地状態に陥っている。
・「三八六世代」の台頭~1960年代に生まれ80年代に学生生活を送った30歳世代(日本のバブル世代)で、軍事独裁政権に反対し、民主化運動を推進。
反米思想が強く、北の主体思想の影響を強く受けた世代だった。
・「竹島」をめぐり悪化、その後は反日行動へと舵を切る。
・不正資金疑惑で投身自殺を図る。
・2007年12月「李明博」大統領~竹島上陸と天皇の謝罪要求で日韓関係悪化。
米国産牛肉輸入再開で猛反対(BSE)~リーマンショックに見舞われる。
「その後太陽政策の打ち切り」を計る
・「慰安婦問題」で政府に憲法違反の判決~任期終盤で汚職で逮捕。
・「2012年12月「朴槿恵」大統領誕生 ~ 両親をテロで失う
・フエリー事故で国民から反感を買い、「崔順実ゲート事件」で秘密漏洩として
史上初の大統領弾劾に進む。
2017年5月「文在寅」大統領誕生~南北首脳会談を実現(板門店宣言)
政権支える「五八六世代」~50歳代で80年代に学生運動、60年生まれ。
「国民情緒法」がある国家~国家間の約束よりも国民の情緒が優先される。
・「内在的論理」の把握から始めよう~相手の論理を知ること、「順法と正義」
「約束したことは守れ」と「非人道的行為は許されない」の確執
おわりに
日本と朝鮮半島は引っ越しのできないお隣同士なのです。近所付き合いはどうあるべきか。韓国と北朝鮮、同じ民族で同じ朝鮮半島に暮らしながら全く違う国家になりました。不思議な国家にも見えます。
以上
コメント