高校生からわかる「資本論」

一般書籍

池上 彰 著

はじめに~「資本論」の再評価

「格差社会」「非正規労働」「働き方改革」を言い出しました。

資本主義は豊かさをもたらした一方で、非人間的な社会もまた生み出しているのではないか。

150前に出版されたカール・マルクスの「資本論」が見直されている。

社会主義の国は多数誕生しましたが、ロシア革命や中国革命は人々を幸せにしたとは言えません

やがて多くが崩壊、資本主義に移行しました。

社会主義国の多くは、非人間的な社会を作り出しました。その原因は、マルクスの思想にあったのか、それともレーニンやスターリン、毛沢東にあったのかマルクス主義を信奉する人たちの多くが実は「資本論」を読んだことがないと言われる理由が解るはずです。     ジャーナリスト 池上 彰

第1講 「資本論」が見直された

「派遣切りと年越し派遣村」

2008年秋以降派遣切りのニュースが出るようになりました。 派遣会社という会社と契約を結ぶことで「派遣労働」が広がりました。

派遣されている間は会社が用意したアパートなりに暮らせますが、契約解除と共に収入がなくなり同時に住む場所も失う事が起きてしまったのです。

・東西冷戦で資本主義も変貌した=福祉国家建設

当初マルクスの考え方だと、資本主義が発展することで労働者は人間扱いされなくなって不満が高まり革命が起きる。これがマルクス理論です。

そこで資本主義国の政治家や資本家、いわゆる大企業の経営者は労働条件の改善をして労働者の反動を抑えようと考えてきました。

イギリスにおける“ゆりかごから墓場まで”の有名な福祉制度の整備。

その結果「社会主義が失敗して資本主義は勝ち誇った」と言われ出した。

今の社会主義の特徴は、共産党が独裁している点しか残っていない。

是は資本主義が勝ったのではなく社会主義の国が勝手にこけちゃったに過ぎないんだということです。資本主義は、市場の力を生かすことが出来たからだと思います。そこから、資本主義が先祖返りして新自由主義という考え方が広がりました。すべては市場マーケットに任せましょうという意味です。

これを市場原理主義とも言いどんどん世界中に広がり金融不安を招きました「恐慌」という言葉でも表現されています。

ところで、日本の指導者層はマルクスを学んでいた。

戦前から戦争万歳と叫んでいた時代にも反対と叫んで弾圧され、刑務所に入れられて戦後出てきて全国の大学の経済学部の主流になった。

・学問の世界に新自由主義

「アメリカの新自由主義こそが正しいんだ」という風潮になってきた。

しかし、「資本論」を学んでどう受け止めるかはあなた次第です。

第2講 マルクスとその時代

1917年ロシア革命 ~ レーニンによる社会主義革命

本来のマルクスが想定していた社会主義革命というのは、資本主義経済が発展して初めて起きるものと考えられていた。ところが社会主義革命の中心になったのは、労働者ではなくごく一部のインテリで、マルクスの想定した社会主義ではなかった。この一握りの革命を起こしたインテリたちが命令をして労働者や農民はその言う通りに従っていけばいいんだと考える「共産党」という党が出来てしまった。その結果、共産党の云う事さえ聞いていればいいんだというみんな勘違いをして東ヨーロッパや中国のようにソ連型の社会主義をお手本にして国ずくりをしてきた結果、「言論の自由」もない国すなわち、マルクスの想定した社会主義とはまったく違う社会が現出してきた。マルクスの「共産党宣言」によると革命を起こして先ず一番に獲得すべきは、「民主主義」だと書いてある。

・「マルクス・レーニン主義」が生まれた。

ロシアのレーニンはまさに武力革命を目指した。これはあくまで特殊な考え方の一つ何だと理解すべきである。「資本論」の第一巻は「資本の生産程」どうやって資本が生まれるのかを論じています。

第3講 世の中は商品だらけ

「社会の富は商品の集合体」

資本主義経済」 ~ 当時の時代は人に売る商品ではなかった。

今の時代は社会の富にはみんな値段がついています。お金を出して買ってこなければいけない状態になっています。大昔は共同体で助け合って生きていた。もちろん商品というものは生まれていなかった。物々交換をして社会が次第に発展するにしたがって商品が生まれてきた。今は全てに値段がついてしまった。「商品」になった。

第4講 商品の価値はどうやって測る?

「使用価値があるから交換価値もある」・交換できるものには共通点がある

共通するものって何だろうか。それは人間の「労働」だ。労働が含まれているから価値があるんだと言っているのです。

マルクスは、「受肉している」という言い方をしています。目に見えない本質が形をとって現れる。そもそも受肉とは、神の子キリストが人間という肉体を持った存在として地上に生まれてきたことを意味します。神の精霊が人間の形をとった。(すなわち、イエスはマリアのおなかから生まれたけれど世界を作り出した神の子ですので肉体があるわけではありませんから私達には見えません。)余談ですが、欧米の文学や論文をよむとき読者にキリスト教的な常識があることを前提に論理が展開されていることが多いのです。

ところで「労働の量」はどうやって測るのか。「労働時間」だろうというのがマルクスの考えです。そして労働には「単純労働と複雑労働」があって同じ労働時間という形でイコールにはならない。イコールで繋がるには労働の質の違いをどうするかということになる。昔の物々交換の時代には交換に便利なものが使われた。例えば日本では稲と交換していた。稲を「ネ」と発音していた。「これはどれくらいの「ネ」?」というわけ。

古代中国では(子安貝)が使われていた。それが今でもお金や財産に貝という漢字が使われている。尚、ローマ帝政時代の兵士の給料には「塩」が渡されていたとされている。この塩の事を「サラリウム」と呼んでいたようでこれが英語の「サラリー」になる。こうやって交換する途中で仲介役になるものが生まれこれがお金の発生です。紙幣の「幣の」字、これは「布」という意味です。いつまでも汚れにくく、壊れたりしないものがいいということで金や銀あるいは銅が使用されるようになっていったのです。

第5講 商品から貨幣が生まれた

昔はお金が「稲だったり、貝だったり、塩」でしたがそのうちにやっぱり金や銀がいいよねということになり「歴史の中で獲得した」という表現をした

お金の単位が記号になった。

もともとお金は重さを図る単位として使われていた。「兌換紙幣」と云われていた(金本位制の時代)ところが重い金貨を持ち歩くのは大変だということから大金持ちに両替を頼むここから「両替商」が生まれる。金をたくさん持ってる人に金を預ける、いつかこの預かり証(信用券)が世界各地で紙幣という形に代わり、この両替商がやがて「銀行」になり、銀行券を発行するようになりました。ところが最初は「金」とかえていたんだけれど、持っている金の量よりもたくさんお札を発行したので全部を金に変えることが出来なくなってしまって取り付け騒ぎが起こりその銀行が破産してしまった。(金融不安)そこで「紙幣を発行できるのは中央銀行だけ」という仕組みになりました。

・貨幣の機能には三つある

1つには価値尺度、次に価値退蔵(保存)そして黄金欲が目覚めるという言い方をしています。三つ目には支払い手段としての機能を言っています。

・第二次世界大戦後の国際通貨体制とは

マルクス以後の国際通貨体制はどうなったのか。1944年連合国の国々が終戦後の貿易にはどんなお金を使うかということで当時世界で一番経済力が強かったアメリカで会議を開きました。そこでアメリカの「ドル」を世界通貨(決済通貨)として1オンスという金の量を35ドルと決めました。ちなみに日本は1ドル360と決まりました。戦後アメリカはヨーロッパ復興のために莫大な援助をしドルをヨーロッパにばらまき、これをマーシャルプランと云います。その後1971年当時ニクソン大統領が声明を出し、変動相場制に切り替え1ドルいくらという固定金利相場が維持できなくなりました。

(ニクソン・ショック)ドルの価値は下がったけれどもドルが世界のお金になっている。

・ここまでの復讐

抑も「資本論」というのは、私たちが暮らしているこの社会が、どうしてこのようになっているのかを経済学の観点から分析した本です。

第6講 「貨幣」が「資本」に転化した

お金からどうやって「資本」が生まれていくのか。

お金そのものを手に入れたいという動きをする人が現れる。お金自体を増やそうという人、是が「資本家」だということです。単に貨幣、単なるお金だったものが資本になる(転化)。資本家の登場です。お金を増やすために努力する「人格化された資本」人間が資本家になるのではなくて資本が資本家という人間になってしまう。経済の動きとして自然にこういうふうになってしまう、そのうちに資本家はお金の奴隷になるとマルクスは言っている。

第7講 労働力も商品だ

「資本家」というのは、工場を立てたり、機械を買ってきたり、原材料を買ってくるのと同じように、労働力を買ってきてここで製品を作らせる。

・労働者は自由である。(職業選択の自由)

・資本家と労働者は対等だ~市場では需要と供給関係で社会は成り立っているわけです。そこでマルクスは「搾取」を発見した。

第8講 労働力と労働の差で搾取する

個人消費と生産的消費、労働者の生産物は労働者のものではない。

「不変資本と可変資本」~工場で新たに生産されるものは部品や機械の価値が含まれています。この部品や機械は不変資本と呼び、労働力は自分の価値以上に価値を生みます、だから可変資本というのです。

第9講 労働者はこき使われる

マルクス時代の過酷な労働~“洪水は我亡きあとに来たれ”

先のことは考えない。自分のいる間さえ無事に乗り切れればいい。

・ワーキングプアを作り出す(貧困層)

「必要労働と剰余労働」~剰余労働によって社会は豊かになる

・グローバル経済で労働力が安くなる

「所有と経営の分離」~ マルクス時代の資本家と現代の資本家

マルクス時代の資本家は経営者でもあった。しかし現代は会社の所有者である株主と経営者は別々のものになりました。

第10講 大規模工場が形成された

工場で大勢が働くことが(価値増殖の法則)すなわち(資本主義の法則)

協業による労働の空間域の拡大

労働者は「類」として発展する(類とは人類という意味)

以上のまとめ

学生時代に解らなかったのは、社会を経験していなかったからなんだということに気づきます。社会で働いたことがないとすれば、働くようになったときに「ああ此のことだったんだ」というがわかるようになるはずです。

第11講 大規模な機械が導入された

機械の導入で労働力を安くする。労働の密度が高くなる。

資本かは金儲けのために教育をするけれども、受ける側からすれば、これまで知らなかった世の中の事を知ることになり人間として発展していける。

だから資本主義というものは悪いことばかりじゃない。皆が協業して働くことで協力して働くという力を身につける、そういう生き甲斐も身につけると同時に様々な教育を受けられるようになってくる。

それは結果的に労働者が能力を高めていくことになるとマルクスは言う。

第12講 労働賃金とはなにか ~ それは「給料」の事だ

あらかじめある「生産手段と労働賃金」に分けられるということである。

第13講 資本が蓄積される

労働賃金の上昇には限度がある。~ プロレタリアートの増加(労働者)

結局は資本家あってこそ労働者の給料は決まる。資本家の財布の限度内でしか、給料は増えたり減ったりしないということ。

第14講 失業者を作り出す

労働に対する需要が減る ~ 必要のない「余剰労働者」人口を生産する 

・産業予備軍を作り出す ~(余剰労働者の事)つまり、いつでも働けますが今は働いていませんいわゆる「失業者」ということです。

・半雇用者とは派遣労働者の事で、パート社員、半分雇用、つまり正社員じゃない人達のことで、いつでも首を切ることが出来るということで「季節工」(季節労働者)です。だから派遣労働者が増えることは、不安定なだけではなく正社員にとっても給料が上がらないというように労働条件が悪くなる。

・金融不安で失業者が増えたのは、急激な景気の落ち込みではなくちょっと景気が悪いなっていうときは慢性的に起きる。そして格差社会が出現する。

2008年秋から急性的に過剰人口が出現し、19世紀にマルクスが言っていたことが起きたのです。

派遣労働者が「ホームレス」になる

少し前までの日本には派遣労働者はいませんでした。工場への派遣労働は禁止されていたのです。それが新自由主義で派遣労働が解禁されて、軽歩兵を生み出したのです。日本はまるで19世紀に戻ったみたいだ。

多分20年前の日本だったら、「資本論」はピンとこなかったかもしれませんが今だからこそ意味が解るのです。

第15講 資本の独占が労働者の「革命」をもたらす

小規模経営から資本主義に発展した

「唯物史観」の見方

世の中を「上部構造と下部構造」という二階建てで考えます。下部構造は経済的な関係でとらえ、上部構造はそれに対する法律や思想を意味します。

日本においては、江戸封建時代には「士農工商」なんて言われて商人が一番下でしたが経済が発展してきて、商業が活発になって商人たちが強い力を持つようになった。しかし上部構造である政治体制は、武家政治のままで制約が大きかった。これ以上に大きくなろうとしても上から抑え込まれちゃう。そんなことが続いているとあるとき上部構造が爆破される。一気にひっくり返され世の中はそうやって変わってきたというのが唯物史観のものの見方。

イギリスでは、過去に“囲い込み運動”というのがあって、農民たちの土地を全部取り上げて羊を飼い、羊毛産業が発展していき農民たちを全部追い出して都会に出てきて「工場労働者」になって経済が大きく変化していった。それまでの経済の在り方ではやっていけなくなる、こういう見方考え方を同じく「唯物史観」といった。

・資本主義体制が破壊されると19世紀にマルクスは予言した。

例えば、いくつもの銀行が合併して、名前が変わった。伊勢丹と三越が一緒になった。西武とそごうが合併して今度は、イトーヨーカ堂がセブン&アイ・ホールデイングになり西部とそごうの合併会社を子会社にした。

150年前にマルクスは「すべての民族が世界市場のネットワークに組み込まれ」すなわちこれはグローバル経済の事を予言しているのです。

すごいことですよね。つまり独占が一段と進むと言っているのだ。

・「最後の審判」が下る。つまり資本主義は終わる運命にあるといっているわけです、これが社会主義革命なのだと。ここまでを示してマルクスは死んだわけです。「資本論やマルクス」の考え方には、ユダヤ、キリスト教的な考え方がベースにある。

「地上の楽園」は幻だった。

日本のキャリア官僚たちも政治家たちも財界人たちもみんなマルクス経済学を勉強してこの世の中に出てきた。資本主義は放っておくとひどいことになるってことはみんなわかっていた。そこで社会主義革命のようなことではなく労働者の権利を守っていけばよくなると手直しを繰り返してきた。

ところが新自由主義というのが出てきて、19世紀にマルクスがいっていたのと同じことが又起きてきた。

第16講 社会主義の失敗と資本主義

マルクスは高度な資本主義国で革命が起きると思っていた。労働者が協業を通じ組織化された活動を通じて、革命を起こすと考えていた。ところが実際に革命が起きたのはロシアであり、中国だった。どこにも組織化された労働者はいなかった。一握りの革命家と呼ばれる人たちが、“ああしろこうしろと言って、いうことを聞かない奴は殺してしまえ”みたいなことをやったのでソ連や中国もうまくいかなかった。

資本主義国家で改革が進んだ

ケインズは、不況対策の経済学を提唱しました。多くの資本主義国がこのケインズ経済学を採用した。(意図的に国が有効需要を作り出せばいいというのがケインズの経済学です)。

景気が悪化する、モノが売れないんだったら赤字国債を発行して公共事業を起こして景気を喚起する。景気が回復すればその税収で借金を返せばいい。労働者の不満が高まらないように権利を守る仕組みとして失業保険や年金制度も作りました。

ところが社会福祉にお金を使うと、国の借金が増え、国が口を出す事業が増え、公務員の増加につながり大きな政府が出来てしまい効率が悪くなってきました。とりわけイギリスでは、鉄の女と呼ばれたサッチャー首相が労働者を守る規制を次々と撤廃した。これが新自由主義の考え方です。これによってイギリスもアメリカも経済が活性化した。日本も当時中曽根首相で同じような事を考えで国鉄、電電公社、専売公社を民営化した。その後小泉首相も受け継ぎ郵政改革を断行し、規制を減らし社会保障への支出も減らしていって、そして派遣労働が解禁された。

ロシアのレーニン、中国の毛沢東、北朝鮮の金日成は社会主義を目指したけれど大失敗に終わり、ヨーロッパの国々はケインズのやり方を採用したがやりすぎてしまって、みんな働かなくなったので、戻そうとしたら戻し過ぎてしまった。

資本論から学ぶこと

150年前に、是だけのことを言っていたとすれば、率直に「すげえなあ」と思ってしまいます。マルクスを再評価した上で、これからの経済政策や政治の方向付を考えていく事、それが現代の私達の責任だと思います。

おわりに

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と云いますが、歴史は他人の経験。

自分の経験だけではなく、他人の経験から多くの事を学ぶ。これが大事なのです。マルクスは150年前に自分の力で、当時の資本主義を分析しました。

私達はそこから学びつつも、さらに現代の経済学で分析し処方箋を書いていかなければならないのだろうと思います。

                        以上

                2019年3月 

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