生命とは何か

生命とは何か? 哲学関連書籍

ポール・ナース 著

常に無秩序や混沌へと向かってゆく森羅万象の中で生き物たちがどうやってこんなにも見事な秩序と均一性を保っていられるのか。シュレデインガーによれば、遺伝を理解することが鍵だと考えたのだ。生命体がどう機能するかを定義する「統一原理」としての生物学の「五つの考え方」

1、細胞 2、遺伝子 3、自然淘汰による進化 4、化学としての生命5、情報としての生命

こうした考え方が何処から発生し、なぜ重要なのか、そしてお互いにどのように関わりあっているのかを説明したい。

人間の活動、人々の生き方、生まれ方、食料問題、パンデミックから身を守る治療など地球上の生命を定める原理をゆっくりと明らかにしてゆくための階段だ。

この惑星上の全ての生き物がどのように繋がっているのかより深く理解するために“生命とは何か”という大いなる謎に迫ろうではないか。

ステップ 1、「細胞」   細胞は生物学の「原子」

生命の基本単位である「細胞」

地球の生命体のほとんどは細菌や微生物細胞であることがわかっている。

巨大なコロニーなんだ。こうした微小な細菌やカビの仲間の細胞は、食物の消化や病気との闘いに影響を与えている。

あらゆる生命体は、本質的に似たパーツすなわち細胞で出来ている。

細胞は二つに分裂することによってしか作れない。(細胞分裂)

・大半の病気はこの細胞の機能不全に由来するといわれる。

・「核」を持つ「真核生物」(動物、植物、菌類など)と「核」のない「原核生物」(細菌、古細菌)とに分類される。

ステップ2、「遺伝子」   時の試練を経て

・遺伝子の発見 ~ 遺伝子は一つ残らず「一対」で存在している。

メンデルはエンドウ豆、ダーウインは花と交配させた植物を使い発見。

フレミングによる染色体(数はさまざまで人間は46個)の発見。

細胞が分裂するたびに遺伝子がコピーされ「繁殖する」

・遺伝子の正体 ~ 細胞の中で働くたんぱく質を暗号化する働き

「DNA」(デオキシリボ核酸)~DNAヌクレオチド塩基の鎖

・ゲノム(遺伝子一式) ~ ヒトゲノム解析計画の成果

遺伝子暗号の一覧表(12,000個のタンパク質を暗号化)

生命は遺伝子なしには存在できない。

我々のゲノムは、性別、民族、宗教、社会、階級に関わらずとてもよく似ている。

ステップ3、自然淘汰による進化   偶然と必然

・生命の多様性と創造の神話

動物、鳥、魚、昆虫、植物、菌類、さらに多くの微生物たちと分かち合い各々特有のライフスタイルにうまく適応しているように見える。

生き物たちの並外れた多様性をもたらしたのは、自然淘汰である。

ダーウインの「種の起源」~ 自然淘汰というメカニズムを考え出した。

・宗教物語の創造活動は容易に想像できるような時間スケールを提示してくれる〉それに比べ自然淘汰による進化は膨大な時間スケールに組み込まれたときはずば抜けた創造力を発揮してきた。

「生命体の三つの特性」 1、繁殖する能力 2、遺伝システムを備えている 3、変異

自然淘汰が効果的に機能するためには生物は死ななければならない。そうでないと進化は止まる。最も成功を収める種は不変と変化との絶妙なバランスを保てる種ということになる。

・すべての生命は同じ先祖で繋がっていてみな我々の親戚なんだ。

・細胞が制御不能のまま分裂するのがガンである。(異常な細胞分裂)

・自然淘汰による進化を発明することで、もっと素晴らしい創造の仕組みを神はお考えになったのだと捉えるなら異なる宗教は異なる信念を持ち、異なる教義は互いに矛盾している。真実こそが科学の究極の目的なのだから

ステップ4、化学としての生命    カオスからの秩序

・「生気論」~生き物は活動する。生命は化学だ。~発酵は人類の関心事

微生物の酵母こそが発酵素(エタノール)を作り出す鍵~パスツール

・「代謝」:生命体で発生する膨大な化学反応の事をいう

酵素が触媒する化学反応(生命現象)~DNA、RNA

生体ポリマー(炭素・水素・酸素・窒素・リン)

・「酸素の大惨事」

地球生命の最も最初(初期)まだ光合成が行われなかったため酸素の供給源はなかった。そのうちに微生物たちが光合成する能力を進化させることで、酸素の量が急上昇した。その後20億年から24億年前に酸素の出現による大惨事となる。生命を作り出した条件が、生命を終焉させたとはなんと皮肉な事だろうか。現在人間はほぼ完全に酸素に依存している。

糖、脂肪、タンパク質からエネルギーを得るために酸素は不可欠だ。

・ミトコンドリアの役割として生命の化学反応に細胞が必要とするエネルギーを生み出すことがある。「細胞呼吸」と呼ばれる化学プロセスによる細胞小器官の区画ミトコンドリア内で起こる。

ステップ5、情報としての生命

全体として機能するということ

・情報は生命の中心にある。

DNAの重要な機能、遺伝子のオンとオフ

細胞は生命の複雑な特性を実現するために連携して働く個々のモジュールの集まりである。モジュールとは構成要素の集まりを意味する

・細胞の記憶

ウエットウエア;柔軟性あるコンピューター材料(生物のコンピューター材料)脳の働き(記憶装置)

遺伝子調節に加えて情報処理も生物が空間に秩序だった構造を築くために重要だ。生きているというシステムは人間にとって理にかなうよう設計された制御回路よりも非効率かつ非合理的に構築されていることが多い。

・数学は完璧を目指す学問、物理学は最適を目指す学問だ。生物学は進化があるため満足できる答えを目指す学問だ。いかにして生物学の知識で世界を変えることが出来るか。

・感染症との闘い

この戦いは決して完全勝利のない戦いでもある。

それは自然淘汰による進化が原因で、細菌とウイルスの大半は急速に増殖し遺伝子も迅速に順応する。

薬剤耐性の増加を伴う現在進行形の自然淘汰である。抗生物質をもっと注意深く使用出来るしそうしなくてはけない。

・免疫療法は近隣の健康な細胞は無視しつつガン細胞だけを正確に攻撃することが出来る。(ガンの新しい治療法の1つ)

・IPS細胞の可能性

自分が生き返り、若返り永久に生き続けるなんて想像できない。老化は身体の細胞や臓器系の複合的な損傷、死あらかじめプログラムされた活動停止による最終結果だ。世界は科学とそれが提供する進歩を必要としている。自分たちにできることをするかどうかは我々次第だ。

「ミセス・グレン」MRSGREN生物の行為を要約(基本原理)

運動(M) 呼吸(R) 感覚(S) 成長(G) 生殖(R)     排泄(E) 栄養摂取(N)

・「進化する能力を有するもの」生物

三つの本質的特性 ①生殖 ②境界 ③機械(化学的、物理的、情報的)

・生命は宇宙のどこかで誕生し地球まで運ばれてきたようだ。

・「並外れた人間の脳」

古い体制を一掃し集団の中にもっとふさわしい変異型が存在すればその新しい世代に道を譲る。死があるからこそ生命がある。

・神経系を通じた視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の信号の動きを追跡した。

・心理学・哲学・人文科学からの知見を受け入れるべきだろう

・人口のコンピュータシステムは、抽象的、想像的な思考、自己認識これらの精神的なものが何を意味するかを定義する事すら非常に難しい。

・異星人と出会うとしたら彼らは我々と同じような仕組みで作られているはずだ。生存競争を生き抜いてきた偉大な同志だ。たった一つの「生命」という家系の子孫たち。生命を慈しみ、生命の世話をしなければいけない。そのために我々は生命を理解する必要があるのだ。

以上