日本再生への提言

一般書籍

中谷巌氏著

“資本主義はなぜ自壊したのか”より

Ⅰ、はじめに

グローバル資本主義によって分断化された日本社会を再生するためには、国家や経済原理は役立たない。たとえば、地方の農村部における限界集落化による人々の生活に直接かかわる部分については干渉する能力を持っていない。

大事なことは、家族であり、地域コミュニティ、趣味のサークル、NPO、

協会等、戦後日本社会を支えてきた、安定性、安心感の結実した中間的組織体(会社)のもたらす、“社会に支えられている”という実感ではないだろうか。

それは、“向こう三軒両隣”と評される地方分権の価値観であり、全国一律のメニューでは解決されそうにないことです。

だからといって昔のような雇用体制に戻せばよいかと云えばそうではない。

又、政府はできるだけ市場に介入せずできることはすべて民営化したほうが良いという現今の新自由主義的考え方ではグローバル資本主義と云うモンスターへと変貌した怪物は抑えきれないだろう。

なぜならばこの怪物は、本来の資本主義が旧社会主義国の崩壊によって市場が巨大化したところにIT技術の発展が拍車をかけた挙句に生み出された怪物であり手の付けられないモンスターなのである。

Ⅱ、グローバル資本主義の本質的欠陥

1、世界金融経済の大きな不安定要素となる~G8先進首脳国会議、効果なし。

2、格差を拡大し、社会の二極化をもたらす~生産と消費の分断による格差。

3、地球環境の汚染を加速させる ~ 経済活性化の副作用として。

人間を大地から離床させてしまった西洋近代思想そのものを吟味する必要あり。

その価値観、社会体制が限界に達した事に気付き、このモンスターに一定の枠をはめる智慧を真剣に考えるときに来ている。

アダムスミス以来の欧米経済学に代わる新しい考え方をいかにして発見するか。

“欲望の抑制”という難題を克服するには、自由になればなるほど不幸になるという現実に気付かねばならない。(新興国への対応)

Ⅲ、ローカル資本主義からグローバル資本主義への危険性

自由貿易思想(強者の論理)、市場原理主義

・市場(いちば) ~ 社会に埋め込まれた状態

・市場(しじょう)~ マーケット経済の自由化

まさに、地に根差した生活の内に植え込まれた経済の姿としての市場(いちば)では丁度日本の里山のあり方のように自然環境が破壊されゆくという事は起こりにくい。このような我が国の文化を土台として、新しいモデル、考え方をいかに発見し、それを世界に訴えていけるか。

人間はどれほどマネーゲームに励もうとも、物を食べて命をつなぎ大地の上に寝起きしなければならない一生物である。このように我々の文化はそうした謙虚な人間観を極めて洗練された形で育んできたのである。

その人間の経済活動が、一切の抑制を振り払って離床することになれば、自然は単なる資源の宝庫であるというよりは単なるゴミ捨て場となる。

労働、貨幣、土地を商品化し、この「禁断の実」を食べてしまった我々は最早ブータンやキューバの人たちのような生活に後戻りはできないだろう。

ならばグローバル資本主義の自壊を防ぐための適切な統制に取り組むことが要求されてくる。そうでなくても、人間同士の社会的つながりなどは、利益追求と云う大義の前には解消されてもしょうがないという危険思想、新自由主義(グローバル資本主義)マネーゲームにとっては不安定が必要不可欠な要素なのである。市場では、カネの動きの追及へと向かう不安定要素は常に働き続ける。

*パンドラの箱は開いてしまったのか?

グローバル資本とはいうまでもなく、利益追求を最大の使命とするのである。

東西冷戦により資本主義が活動できたのは、西側世界に限られていた。

その冷戦の終結を機に東側世界が一挙にグローバルマーケットに入り込み、IT革命も手伝って情報通信の技術が花開き、ヒト、モノ、カネの高低差が一気に拡大した。

先進国が安い賃金労働者から大きな収益を上げ、利子の低い国の資金を高利回りの国へ投資することで国境を超えパワフルに回転するようになって、モンスターに変貌し格差拡大と貧困層を作り出した。

同じ人間の中に四通りの異なる価値を追及している主体者が同居しながら競争を繰り返している結果、投資家と消費者に十分報いる事が出来る場合があっても、労働者と市民は酷い目を味わっている事になりかねない。

雇用システムの改革により3人に1人が非正規社員(労働者)、4世帯に1世帯が貧困層(特にシングルマザー世帯の貧困率は世界最高)、普通の暮らしをしている国民が同情心や共感を持てなくなりつつある日本の現状を憂うるばかり。

終身雇用、年功序列の日本型雇用保障の価値観が戦後の製造業(国際競争力)を支えてきたのである。元請けと下請けとの共同価値観の成果であった。

そこには日本人の身の丈に合った経営姿勢が貫かれ、「誠実な商売、丁寧な物作」

その後、耐震偽装、食品産地偽装、粉飾決算の横行と云った不祥事を繰り返し、

このたびはレストランのメニュー偽装なる不始末。

Ⅳ、大胆な政策転換(産業構造の転換)に踏み切るときである。

「高福祉、高負担」の北欧諸国(デンマークやスエーデン)に習い国民負担率の高率化を覚悟の上で税制改革を実行。

1、還付金つき消費税(税率20%~25%を目途に)~福祉目的税とする。

2、税方式の基礎年金制度、

3、高齢者保健制度改革

4、労働市場改革(失業保険、雇用対策、職業訓練所)

*誰もが納得する政治など存在しない事を承知の上で、真の政治家を望む。

5、環境分野(日本的価値観)で実績を積み上げる。

「共生の思想」に基き西洋の「征服思想」とは一線を画す自然観を世界に向けて発信し続ける事である。環境技術の開発に取り組む。フランスのストラスプールの例に習い都心部への車の乗り入れを禁じ、街並みを作り替える。

公共交通機関として市電(トラム)とバスの導入等。

Ⅴ、アメリカかぶれからの脱却

“かぶれる”という言葉

客観的に見る目、批判力を失うということで軽薄な行為と捉えられやすいが,他方「絶対これが良い」と信じているわけだから“かぶれる”ことによって、

対象物を崇め、疑いの心を持たずに、ただひたすら吸収することに邁進する。

感情的、情緒的、非合理的行動をするのが人間である。理念を強引に押し通すのは幼稚な行為である。

・アメリカ的「十字軍精神」

1,620年、メイフラワー号(ピューリタン)イギリスの宗教的迫害から逃れてきた難民

・1,630年、カルバン主義者としての「理念国家」~“神から与えられた使命”

 理想の国家建設に燃え「宗教国家」を目指す。

 後退することは神から与えられたアメリカの崇高な使命を放棄する事になる

*このアメリカの性格ともいえる考え方が内向きに出ればモンロー主義(孤立主義)外向きの時は民主主義、市場原理主義の“布教”となる。

*移住が第一の建国、独立宣言が第二の建国、そして1,861年の南北戦争(聖戦としての)が第三の建国、合衆国制となる。

フロンティァ精神(西漸運動)に燃え、やがてヨーロッパ領域まで進出、

中東で行き詰まる。

1,940年代以降、所得格差の縮小により豊かになった。(大圧縮の時代)

1,945年~1,970年の30年間(第二次大戦からオイルショック直後まで)

ニューディル政策、福祉政策等を取り入れ豊かなアメリカを創出した。

公的社会保険はないが、企業が仲介する間接的な社会保険が労働者にとって

得する仕組みであり、社会全体の豊かさの為には政府の介入が必要であった。

1,980年代に入り小さな政府と銘打ち「レーガノミックス」「サッチャーリズム」

高額所得者向けの減税、自己責任、格差拡大、中流の消滅、医療福祉の後退、

構造改革の名のもとに新自由主義思想の登場である。

支配のために、平等ではない情報を操りながら、先進国病とまで揶揄されながらも、インフレ、景気過熱、財政赤字、公的部門の肥大化等の問題を抱えながらも欧米のエリートにとって都合の良い思想(民主主義)の隠れ蓑よろしく、価格破壊と云う名の構造改革がまかり通っている。

*日本では、55年体制をぶっ壊し “構造改革なくして成長なし”と息巻く小泉改革の結果は以下の通りである。

  1. 医療制度改革(後期高齢者医療の改革) ~ 国民の怒りを食う。
  2. 食品汚染問題 ~ 毒餃子、メラミン牛乳,汚染米、野菜
  3. 安心安全神話の崩壊 ~ 産地偽装、危険食材、モラルの崩壊

1,993年小沢・細川新進党政権後、自民党小渕、小泉等を経て継続されてきた規制緩和、撤廃政策が一時民主党政権に移譲しつつ現在の安倍政権へと移行する中でかなり変容してきている。

何となく危ない感じがしてならないのはどうしてなのか。何か急ぎすぎてるように感ずるのはどうしてなのか。相手を安易に信用するようではヨーロッパや中国では生き残れないと言われているにはそれなりの理由があるからである。

力で強引に解決するよりも、話し合いによる共存共栄を選択する和合の精神

は今も日本人の伝統精神である。

生活空間が限られた吹き溜まりともいうべき島国では、目先の利益を追求するといった小賢しい輩は信用に値しないどころか相手にさえされない。それよりも安心感を与えられるような配慮の行き届いた人が好まれるのである。

アメリカ的な目先のチャンスを逃さない経済人とは一味違うのである。

しかし、都会のような流動性の高い社会ではむしろこちらから相手を利用するくらいの強かさを持っていないと生き残れないとされることも理解できる。

「信頼こそ社会資本である」

情報の非対称性においては、売り手のほうが買い手よりも多くの情報を持つ。

利益を最大化するには方法を選ばない。これがアメリカと云う大国の実情だ!

以上 2016/03/12

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