新・水滸傳

一般書籍

新・水滸傳(一)

吉川英治 著より

  • 道教では、この宇宙を魔界と仙界の二元から成るものと観て、北斗、太極、二十八宿などの星座を崇め天体中の徳星は、邪星、妖星は仙術の兜を以って、封じ込めておく。
  • 百八の螢惑星が封を破って地上に宿命し、やがて一星一星が人間と化してかの梁山泊を形成してついに宋朝の天下を危うくするという大陸的構想の、中国水滸伝は物語られてゆく。それは日本史に照らすと鳥羽崇徳天皇の下に平の忠盛、清盛などが平家の時代を招き興そうとしていた時代に当たる。
  • 世の才子肌にもとかく鼻につく小才子風と言葉少ない誠実型の二つがある。 自己の才をすぐ蝶々とひけらかすような真似はせず、あくまでも初心で謹直な好青年の如く初対面の貴人へ印象づけた。
  • “鳥なき里の蝙蝠”とかで自分以上な者はないという手の付けられない増上慢
  • 「武技十八」  

①弓②強弓③ヤリ④刀⑤剣⑥搔き鉾⑦楯⑧斧⑨マサカリ➉戟⑪鉄鞭  ⑫陣筒⑬棒⑭分銅鎌⑮熊手⑯刺す又⑰捕り縄⑱白打(くみうち)

「三帰」;1、仏法に帰依2、正法に帰奉3、師友に帰敬

「五戒」;殺生、偸盗、邪淫、貧酒、妄語

  • “漢は漢を知り、道は道に通ず”
  • 林冲一人を置くのでは自分の地位も然ること成れど、彼に対してもう一名互角な人物を配下に置けば相互が牽制し合う形になり御しやすい。
  • いわばみんな庶民の汗やあぶらやよからぬカラクリで作った不義の賊、そいつをこちとらが狙って分捕ったところで、お天道さまもよもやこちとらだけを悪いと云うまい。
  • 単に悪を悪と見做すなら、悪の密雲は上層ほど濃く大きい。しかも政治に隠れ権力にものを言わせ公然と合理づけた悪を行なって、“恥するを知らない。”この頃の役人と来たら、賄賂に弱く、人民には強く、ちょっと手強いヤツにぶつかると逃げ回り、訴え出立って間に合う頃に来た試しなどありゃしない。
  • 妙計を信じた事も敵の応変によっては自らの死地ともなる。あまり計によって策士策に溺れるなどのないように、各々神出鬼没と致しましょう。
  • 日頃胸にあるものは、何かの弾みには我ともなくついに口に出るものだ。“ようっ、おいでなすったね、役人衆”捕手とイナゴは頭数で脅すと極まってるのか、この意気地なしめが。
  • 人には天性おのずから器というものが備わっているものだ。林冲は器にあらず、晁蓋殿こそ人の上に立つべきお人だ。
  • 当時の宋朝廷下の官史には、奸ねい、讒訴、賄賂、警職の濫用、司法の私権化などあらゆる悪が横行していたのでその弊風は洲や県、地方末端の行政面にもそのまま醜悪を大なり小なり包んでいた。
  • 女をコロッとさせるには、初心っぽく見せかけ、次に大事なのは五つの条件 ①拍子合 ②お容貌 ③いちもつ ④お金 ⑤ひま
  • 物はのどに閊えないように食え ~ “意趣、遺恨”は人間を変化化導にする、一端は引き下がってもこのままではいない。
  • 根は皆「ヤクザ」も「仏心」の子か。
  • 強欲、残忍、佞奸、あらゆる悪評を冷視して代に蓄えた金銀財宝
  • 漢を愛し、世を憂い、不遇な人間たちに深く同情はしていたが、かりそめにも賊の仲間入りなどとは夢にも思っていなかった。“人生いかに生くべきや”それしかなかった人である。
  • 「知らざるは無けん、及時雨の宋江、こよい九天玄女(あまつめがみ)の天書を賜って、月兎梁山泊へその人を送る。見るべし以後の仁、と義と礼智の風 天に代わりて、人が天兵をおこなうところを」
  • 古人はいいことを言っている。“人に千日の好い顔なし花に百日の紅あらじ”
  • 一字でいえば「僧」二字「和尚」三字で「鬼楽官」四字で「色中餓鬼」その上に身は金襴を着、施主檀家のふところで三度のお斎に飢えはなし、座る椅子は高く人への施し至って低く、伽藍は殿堂をしのぎ密房の時間は頭のうちには念々門外の娘、参詣の人妻あれやこれやの女、女、女ばかりの妄想

新・ 水滸傳(二)

  • そもそも水滸伝物語は、その発端、百八星の事からして、いわゆる怪力乱神を「世にありうる事」として話の骨子に取り入れて有るものだが、中には多少宋朝の史実も酌み入れ編中人物の行動などにはかなりリアルな節もある。かと思うと高簾の妖術やら戴宗の神行法なども平気で駆使する。~道教信仰を詩化しているともいえよう。
  • 天殺星という魔星~世造りと人革のため血を流す地獄の仕事をしなければならない宿命となっている。
  • しかし世はまだ混沌時代、真の世造りと人拵えのなるまでにはなお五千年もかかるだろう。それまでは地上の人間も鬼畜の業を脱しえず、殺し合い、憎しみ合い悪と悪との血みどろを這い回るのも是非ないとするしかない。それゆえ、今生一生の業では所詮覚束ないが今も暗明の世造り時期そう心得て汝も修羅へ行くがいい。くれぐれも人欲に迷うなよ、誤るなよ。
  • 彼らの生い立ち、受難を聞けば皆これ根は素朴善良な野生の民に過ぎない。~言うなれば梁山泊という現代の悪の巣は宋朝政府の腐敗そのものが拵えたと言っていい。
  • 「晁蓋(ちょうがい)」は重厚な義人、「宋江(そうこう)」は世が世なれば涼やかな賢人だ。
  • しかし人間として生まれた宿業の尽きぬうちは、いやでも天はあなたを地上で使い切るでしょう。「梁山泊」は賊の巣窟とのみお考えのようだが、これなん天罡星(てんこうせい)の集まりです。天意による世直しの大作用をこの土において強いるものです。
  • 今日からは「忠義堂」と改称する。「天に代わって道を行なう」お互いの志をここに結ぶという意味で。
  • この忠義堂だけでも参謀室、文書課、印鑑信書部、賞罰係、勘定方その他
  • 諸君は、相手を殺すのが勝だと思っているが、人を生かすことを以って勝利となす。我々の仲間は、“世に忠義をむねとし、人に仁と義を以って接する”を本来の約束ではなかったか。
  • 君らは、自分以上な者を敬うことを知らないのか。思うに今、天 星が相会する重大な機運が来ているものと思う。 「天 星36名+地然星72名=108名」
  • だって現朝廷の腐敗、悪政その下に泣かされている辺土の民、今更でねえがひでえもんだぜ、それはみんな天使が悪いからじゃありませんか。確かにそれは天使のご不徳ではある。 ~ だからその君側の奸、奸ねいな諸侯や悪臣のみが政治を自由にしている。(盲天子じゃ飾り物じゃないか)といって誰を「天の至尊」と仰ぐか。ともあれ今日まで数世紀この国の文明を開拓してきたその力は実に大きい。然るにもしこの帝統がここで絶えるようなことにでもなったら、それこそ全土は支離滅裂な大乱となり、四民の苦しみは到底今のようなものではないだろう。それでいいのか「生」をこの国(宋)に受けた我らがそれでいいとしていられるか。
  • 私の多年の宿望には違いないが然し、一身の安穏や栄達を願うためでは決してない、ただ国を思うからだ。  天子の大赦を得て勅の下に働かねばどうしても、真の働きは発揮しえないからでもあるのだ。“諸君解ってくれたであろうか。”

以上