池田 大作・松下幸之助著
<池田氏>からの(質問)
1,人間というもの
・人間内面の法則
精神の自由と創造性をコントロールするなんらかの力なり働きがあるか。
<松下氏>答え
そういうものはあると思う。良心といったものではないか。良心を導き育てる教育、良心を培養する政治というものが大事、そのことを正しく知って正しく培養するかを考えたらいいと思います。
・人間の条件とは何か
ホモサピエンス(知恵ある人)最も人間たる条件
<松下氏>答え
宇宙を一つの偉大な生命体と捉える。自然の理法として万物に作用する。人間は自然の理法を認識し万物それぞれに与えられている特質を見出しつつその特質を大事にして活用していく。
知恵ある動物としての限界を英知として生み出していく。
・唯物論と唯心論
生命の心に重点を置く唯心論、物質に基盤を置く唯物論,身体と心の関連性
<松下氏>答え “心身一如”
この考え方をより深く高い観点から新しい哲学が必要とする考えに同感。
この論争を続けている限り世界から争いというものはなくならない。
・生気論と機械論
原始的な生気論(未開時代)からギリシャ時代におけるアリストテレスの生気論・デモクリトスの機械論。いずれも新しい生命観を形成
<松下氏>答え
物的法則と共に心的法則が重要となる。生きる力と共に使命の力というものが生命力として働いている。生命力が根幹ともなって物的法則、心的法則いわば三つの線を成して自然の理法が万物に働き生かし動力している。
・欲望の種類
四つの段階 ~ 本能的、心情的、精神的、本源的(宗教的)欲望
<松下氏>答え
人間の生きる力、生命力 ~ 欲望の善用の善き道しるべ。
・人間生命に内在する欲望
権力への意志(ニーチエ)・力の意欲(アドラー)~生命内在の根源的衝動
<松下氏>答え
四つの段階に分けての欲望は全てこの生命力の発現の姿だと申せましょう。
その善用を図っていくことが大切である。
・残虐性と理性
前頭葉に基ずいて発現する精神活動と殺害と征服しようとする衝動
<松下氏>答え
大脳の働きの中に優れた理性と残虐性の両方を生む働きがあることは何を意味しているのか。善に向かわせる教育、躾が大事であるということを教えているのではないか。残虐性を鎮め創造へと向かう意志、意欲、思考の働きを高めるようにするにはそのような教育をしていくことです。
・人間の差別 (実質的差別の原因)
<松下氏>答え
運命と捉える時、運命に前向きに取り組んでいくことです。
・超人類は出現するか
<松下氏>答え
そういう生物はあり得ないと考えていいのではないか。人間は万物の王者として非常に優れた本質が与えられている。それを自覚認識し衆知を集めて物事を成していく今日の人間はそういったことが十分には出来ていない。
・大脳移植の是非
<松下氏>答え
成らないと思うし賛成できない。生命維持が目的であり、死ぬべき時は死ぬ、寿命を終えたら死に至る。
・人間尊重のために
<松下氏>答え
人間を圧迫し他人の自由を束縛したり心に怒りを抱いて変革運動を行う時には心して変革運動の在り方に慎重を期してほしい。
・人間革命運動の評価
<松下氏>答え
これまでと同じ人間観に立っての変革ではなく、単なる制度や機構の変革だけでなく先ず人間そのものを変えるという。
2,豊かな人生
・人生コースのモデルは
四気に分ける人生コース(バラモン階級)
第1 学生期 ~ 12年間くらい
第2 家長期 ~ 20歳から50歳
第3 林棲期 ~ 人格完成
第4 遊行期 ~ 托鉢遊歴
<松下氏>答え
四つのモデルは善き参考になる。それぞれの人が人生の意義に思いを致しつつそれぞれの人生に即した人生コースを考えていったらいいでしょう。
・普遍的な生き方 (価値の多元化の時代)とはいえ
<松下氏>答え
不信感に満ちた時代にあって騙されることはあっても騙すことのない姿を生み出すための基本的な心がけという当然の事が行われていないのが今の社会です。自由な活動が許される社会を目指したい。
・女性の特質と役割
出産と育児に対する経済的、社会的保障
<松下氏>答え
出産と育児という特質、男尊女卑的な誤った考え方を打破。
とかく保障は国が行うものといった考え方果たしてそれでいいのか。
経済的保障は男性が行うべきです。始めから国が保障するとしたら夫として男性として果たすべき責任を軽視することとなり、結婚もせず家庭も持たずに子供を産むといった姿が増えて困るのではないか。夫婦一体となって家庭を守り育てていくという健全な共同生活を望みたい。
・女性の職業
<松下氏>答え
女性は家庭を守るを基本にその意義と重要性が高く評価されるべきと思います。女性に適した職業についたり、実社会を知るために結婚前の一時期を職業に就くことは意義あることと思います。
・最後に悔い亡なき人生
<松下氏>答え
日々怠りなく誠実に生きる信仰なき人;信仰に根差した安心感を持つ人生
・人間のモットー
PHP ピース(平和)ハッピネス(幸福)プロスパテイ(繁栄)
“素直な心”「私心なくくもりない心」「とらわれのない心の大切さ。心がけ。
・苦闘の体験は
<松下氏>答え
この質問が一番お答えにくい。他人から見ての苦闘が自分では苦労という感じがなかったかもしれません。いい人だけを使って仕事をするというのは虫が良すぎます。世の中には悪いことをする人がたくさんいる。一人くらい悪い社員がいるのを許せないではいけないと気が付いたのです。そのあとはそういう考えに立って非常に大胆に人が使えるようになりました。
・統一的な自我の持続
多元的組織のメンバーとしての生活
<松下氏>答え
しっかりした人生観、個人的な人生観にせよ、国家における国是にせよ
“素直な心”から生まれてくるものでなくてはならない。何らかの意欲で作ったものでは、普遍的な力強いものにはなりにくい。
・個人主義と利己主義
混同を避けるには、どういうことに注意すべきか
<松下氏>答え
ペルソナ(人格主義)アリストテレス。利己主義と混同。自分だけを大事にすることから好ましい共同生活が生まれてこない(自己中心主義)
・次の世に生まれるとしたら
<松下氏>答え
今と同じ日本の国に男として、庶民として生まれたい。職業には上下貴賤はないが、政治というものを多少使命を以ってやってみたい。
・青年に期待するもの
<松下氏>答え
新しいより良い日本を作り上げていく、大人(指導者)が先ず与えるテーマを持ちそれを青年に与えていく。
・信条について
<松下氏>答え
“素直な心”日に新た。変化の姿であって日に新たという見方もできる。
・歴史をどうみるか(人間の歴史観)
<松下氏>答え
生成発展は無限に続く。民族の特殊性を生かしつつ世界を一本化。
・中国の歴史上の人物(英雄、豪傑)西遊記、三国志、水滸伝
「堯舜の世」 ~ 理想の世
自分より優れた部下を使うということを知っていた劉邦、義の人関羽
・青年の無関心層の拡大
社会機構の中で自己の存在を見失しかねない現代。
<松下氏>答え
使命感を持っていない。国是、国訓の確立。学問する人の適正化
・影響を受けた人物
<松下氏>答え
あえて挙げるとすれば、聖徳太子。17条憲法(和を以て貴しとなす)
いい意味での派閥の倫理
3,宇宙と生命と死
・死に望む覚悟 (死に対する不安、覚悟)
<松下氏>答え
深く考えたことがなかった。
・死後の生命 (空という概念、生命の特性)
<松下氏>答え
大宇宙に融合するという考え方にやや近い。宇宙の生命体に帰納し一体化して個々にはもう存在しない。
・肉体離脱体験とは
<松下氏>答え
ある種の錯覚、幻想ではないかと思う。潜在意識の働きではないか。
・死後における身体
<松下氏>答え 生命は非物質的で目に見えない清らかなもの
・転生の可能性 (生命科学の提示する転生について)
<松下氏>答え
人は一度だけこの世に生を受けてその生を終えた後は二度と生まれ変わることはないものと思う。
・安楽死と宗教の役割
死自体の深い不安を乗り越える原動力として宗教の役割を見出している。
<松下氏>答え
今後厳正にして荘厳なる安楽死を認めるようになるのではないか。
・生命の発生
地球自体に内在する生命の傾向性が不可欠の要因
ジャック・モノ―の偶然と必然
<松下氏>答え
大宇宙それ自体一つの生命体である。一切のものに生命がある。
生成発展に則した存在である人間は単なる偶然の所産であると考えるよりも生きていく事発展させていく上でより強い信念が持てるのではないか。
・進化論をどうみるか
ダーウインの生物進化は突然変異と自然淘汰が主軸となって促進される。
ラマルクの環境に対する能動的な適応性(進化への定理)
<松下氏>答え
一つの生物が異質の生物に進化し本質が変わっていくという進化論には疑問を感ずる。それぞれの生物がその発生当初から独自の特質を持っていて、下等なものから次第に高等な生物に変化したとする進化論は同意できない。
・人類の誕生
“類人猿”との決別の分岐点~(直立二本足歩行、道具の使用、言葉、火の使用、理性、知性、意識、精神等の発現)人間生命と地球、宇宙との関連性
<松下氏>答え
人間と類人猿は本来同じ祖先だったとする意見には同意できません。
「生成発展」という自然の理法の働きで人間を発生せしめた自然条件がそういう特質を与えたものであり人間とサルは最初から違うものだと考える。
・部分的生命と全体生命(ヒーラー細胞という細胞)
<松下氏>答え
人間は宇宙生命の分身でありそれを形づくっている個々の細胞はそのまた分身だと人間に限らずどの生物にも言えるのではないか。
・生命現象の重要性
<松下氏>答え
思想文化、社会すべて生命体として躍動しているものと考える。下等な単細胞から高等なものまで段階があり人間がその最高位に位置する。時が来ればその生命体は終え新しい生命を持ったものが生まれてくる。一つのものに固執するという弊害に陥ることも少なくなる。
・生命現象の不確定性
量子力学「不確定性原理」これを克服する学問が興り得ると考えられるか。
<松下氏>答え
克服されることも考えられる。
・生体実験の疑問
ジェンナーの種痘実験(息子)・華岡青洲の麻酔薬実験(母と妻)
<松下氏>答え
行なう側も批判する側も良識を養いつつ、人体実験的なことは進歩を生むものだと思う。
・生命の人工合成は可能か(不可能か)
<松下氏>答え
生物の発生については先に述べた通り自然条件のもとで発生してきたと言える。そういう自然現象を作り出すこと自体不可能と思われます。
・人口問題と避妊
<松下氏>答え
人口問題と食糧問題、そして避妊問題共に知識の普及に努めたい。
・避妊と性道徳<松下氏>答え
教育による性道徳心、法律による規制等
・試験管ベビー
<松下氏>答え
プラスに生かすか悪用するかは人間次第。
・自殺をどう考えるか
<松下氏>答え
自殺は原則としてはいけない。歴史的に城主の切腹。万民を救うために例外中の例外として認められてきた。海外では日本人の“腹切り”サムライ精神。
・現代生物学発展の方向(遺伝子操作の可能性)
<松下氏>答え
生命の本質は生物学だけでは把握されない。哲学的に推知するしかない。
・地球外生物の存在
仏法上では存在するとある
<松下氏>答え
他の星に生物が存在するかどうか。
・地球外生物との共通点
<松下氏>答え 本質的には共通する。
・物質究極の姿とは(素粒子の世界)
<松下氏>答え 物質には究極の姿というものはない。
・宇宙は有限か無限か
<松下氏>答え
宇宙は限界はなく人間によって解明されていく。時間においても無限
“躍動無限宇宙論”
・エントロピー増大の法則(熱的死)
<松下氏>答え 「熱的死はあり得ない」
・エネルギー保存の法則
<松下氏>答え 「物質の不生不滅、死後の生命は先に述べた通り」
・東洋医学の評価
西洋医学との対比、他に中国医学、陰陽五行説
<松下氏>答え
西洋、東洋医学共に巧みに使い分ける、併用していく。
4,繁栄への道
・真の繁栄とは何か (公害、人口、資源)
<松下氏>答え
物身一如 ~ 物心のアンバランス、“素直な心”
・中道について(左右激突)
<松下氏>答え
“過ぎたるは及ばざる如し”~口に中道を唱えつつ実行する人が少ない。真の意味での中道の考え方は必要。
・福祉の理念とは何か
大衆福祉国家への道 (国民の血税による)
<松下氏>答え
単に与えるということではなく、やはり自らの努力、働きを繰り入れる。
自分で働いて得た福祉はその苦労に喜びを感じ生き甲斐を感じせしめるような点も加味した制度にしていくことが大事である。与えられただけの福祉ではやがて不満も出てくるのが人間の本性に則した理念である。
・老人問題の根本
<松下氏>答え
世界有数の長寿国日本にあって、生き甲斐を持たすには、適当な仕事の提供
・資本主義社会の問題点 (逸脱した社会かどうか、必要的な社会)
<松下氏>答え
人間の本質に根差した姿である。今後欠点を是正する方向性を持つこと。
・治安の乱れの原因
<松下氏>答え
法の軽視の風潮(治安維持の弱さ)教育ににおける先生と生徒との友達付き合いといった風潮、政治の折り目、けじめに問題あり。はっきりした目標、方針、理念が必要等 マスコミの報道の在り方が問われる。
・余暇をどう利用するか
<松下氏>答え
国家の経営として基本理念、方針を明確に示す。
・人格的価値の基準
<松下氏>答え “素直な心”が人格的価値の基準
・新しい恩の考え方(一切衆生の恩)
<松下氏>答え
「感謝報恩」恩返しを要求されたり、強制されたりするものではない。
・正義と力
力こそ正義なりとの建前の下に力の暴力が先行しがち
<松下氏>答え
勝てば官軍 ~ 権力者が政治に取り入れる。正義を正義として受け取る人が少ない。(徳育のすすめ)
・タテ社会の人間関係(権威的に拘束されがち)
<松下氏>答え
急激な変革は望まないが、大勢を認めたうえで、ある極の方向付けをして導いていく。
・富の公平な配分(資本主義経済での富の公平配分)
<松下氏>答え
富を生み出す人、生みも減らしもしない人、食いつぶす人と色々あるが、取りあえずは半分は頭割り均等配分し残りの半分は富を生む働きに応じて配分する。税金と社会保障(累進性)
5,宗教、思想、道徳
・宗教と人生の関係 (宗教はアヘン、精神修養)
<松下氏>答え
人間と共に永遠に存在する。今のところどの宗団、宗派にも属していない。
・宗教はどれも同じか
根本は同じ、一つに固執するのは可笑しいか。
<松下氏>答え
宗団、宗派によって異なっている。深く考えないで入っていくという態度ではいけない。
・平和に果たす宗教の役割
人間の心、精神に確実な平和の砦を構築する方途としての役割
<松下氏>答え 我執を去る ~ “素直な心”
・世界宗教となった条件
三大宗教(キリスト教、回教、仏教)
<松下氏>答え
人間の本質に触れる。
普遍的な真理を持ち教理が解りやすい。時の権力者が活用した。
・仏教をどうみるか(東洋思想の再発見)
<松下氏>答え
西洋文明の行き詰まりに西洋人は気付いている。東西融合した新しい普遍的な一大思想というものが日本に醸成されることを望むところである。創価学会が時代の要請に応えるべく活動されている事に敬意を表したい。
・仏教書ブームについて
<松下氏>答え
西洋人の中に禅という言葉が広まる。キリスト文化より科学文明のほうが強くなってきている。このような進歩は、むしろ悩みが深まるようだ。
・聖徳太子と仏教(17条憲法に注目)
<松下氏>答え
聖徳太子の“祭政一致”という日本の伝統は正しい意味を持っていた。
・仏教伝来の原動力
<松下氏>答え
人間の本質に触れるものがあったからで、インドにおける階級制度による弊害は動かしがたい。一般宗教に対しても新しい説き方を創造してほしい。
・宗教と文学・文化
源氏物語に見るような仏教による影響力
<松下氏>答え
宗教によって文学は人心の機微に触れたものになる。人間の愛憎、煩悩を宗教が扱わなかったら深みある文学は出来にくかったであろう。仏教を知ることで人間の百態を知ることが出来た。
・倫理道徳と宗教の違い
<松下氏>答え
倫理道徳は自分の身を正すルールと見做す。宗教はすぐれた教えに対する信仰心いえよう。宗教は単なる知識ではなく、倫理道徳の根底に躍動して心から湧き上がって来て倫理道徳を守らせる根底の力、そういうものを生む働きをする。
・哲学、思想、宗教の違い(混同されつつある現在)
<松下氏>答え
この三つの根本は同じである。
哲学~人間とは何かを問う。思想~こうすべきであると説く。宗教~神聖化したもの。共に人間特有のものであり、先ず問から発している。
・倫理道徳を支えるもの(価値観の崩壊に対処)
<松下氏>答え
道徳は本来実利に結びつくものですが、道徳は犠牲が伴う貴いものだとする通念が大きな誤りを生じている。道徳も滅私奉公ではなく自他共栄を生むものです。正しい道徳観が認識され教えられることが大切である。
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